592.帰りたくない

たくさん、言いたいことがあったのに、ぬくもりを感じたらそこから溶けてなくなっていく。

言おうと思っていた不満は、静かなキスに変わる。
キスするたびに唇も眼差しも優しくなっていって、温かいものに包まれて、何を怒ってたのか、何に妬いてたのかわからなくなる。

不本意やけど、これを「機嫌が直った」と呼ぶなら、そうなのかもしれない。
会ってしまえば、先生が私に微笑んだら、吹き飛ぶような嫉妬。

で、このぬくもりが消えたらまた、ゾンビのように不平不満が甦って、その繰り返し。
だから、ずっと一緒にいて毎日抱きしめ合えたら、ケンカになんてならないような気がしていた18歳の春。
先生の寝室が、仲直りの場所になる。


「匂いが違う」

と、私の首に顔を埋めた先生が言う。
私も、自分の髪をつまんで匂いをかいだ。

「シャンプーかな?ホテルのアメニティ、何から何までめちゃ高級感漂ってたで」

「そうか。直接うち来たんやもんな。お前、変な解散の仕方してへんやろな。なんかあいつらに迷惑掛けてるんちゃうん」

「え、多分大丈夫かと…」

皐月ちゃんはともかく、鮎ちゃんも結構迷惑な人やし…。
先生は続けて質問する。

「あいつらに俺のこと愚痴ってへんやろな」

「あ、まあ、多少は…それなりに。へへ」

結構めちゃくちゃに言うてる節は否めず苦笑い。

「……ま、ええけど。信じてますから」

抱き合うのをやめて、先生がベッドに座って飲み物を取る。
信じてるって言われたら……うーん。多少言いすぎてるかもしれん。

「……結構愚痴ってるかも。ごめんなさい……」

謝ると先生が苦笑した。

「謝らんでええけど。何か嫌なことあったら、人に言う前に、俺に言うたらいいのに」

「いや、言ってもわかってないから愚痴るんやん」

「言われたらわかってるわ。人をアホのように言うな」

「でもー…」と、また口をとんがらせて不服を言いそうになってる私の髪を、先生の手で思いっきりぐしゃぐしゃにされる。


「ひどいー!サイババになる」

「なってへんし。そろそろ送るか」

と、先生が立ち上がろうとする。

「えっ、もうそんな時間?」

「まだちょっと早いけど」

「……それなら、まだ帰りたくない……」

先生の腕を引っ張って、ベッドに落とす。
もう少し愛し合って、元気になったら帰るから、もうちょっとだけここにいる。




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