542.おやすみの指先

「何なんみっちゃん、さっきからにやにやして…」

先生は、軽く拳を口元に当てて、こほっと咳払いをして私を睨む。
にやついているのはバレていた模様。


「だって、先生かわいいし」

「もうそれはええわ」

腕を小突くようにされて、先生が車に乗り込んだ。
視線を合わせて、二人で脱力しながらも笑い合う。


「ほんまに、お父様にくれぐれもよろしく…。それと、何度も言うけどほんまに勉強して下さい…」

「はあーい」

軽すぎる返事に、先生の眼光は鋭さを増す。


「…受験終わったらまた来るから。今度こそしっかりご挨拶に上がるから。お母さんにもよろしくな」

「はーい。先生、次はいつ会える?」

「…また連絡します。お前、もっと緊張感持てよ。もう泣いても笑ってもあと1ヶ月やねんぞ」

「緊張感持ってるよ!失礼な!」

抗議すると、先生は笑いながらエンジンをかけた。


「はいはい。じゃあな。帰るわ。おやすみ」

「うん、おやすみ」


車の窓を閉める前に手を伸ばしたら、先生が指先を握ってくれた。
二人とも、少し冷たくなった指先が、するりと絡む。



「おやすみ。みっちゃん」



先生の瞳に、私が映ってそうなぐらいまっすぐに見つめられる。



絡んだ指がそっと離れて、窓が閉まる。

こういう時、いつも胸がきゅっとする。



先生に妬かれると、息苦しくなったりもする。
恋人としてうまく距離を取れないもどかしさや、戸惑いも、感じることはある。
でも、帰っていくところを見送るのは、やっぱり寂しい。



先生の車が角を曲がって見えなくなった。

さっき触れた指先を自分で握ってみるけど、何にも感じない。
先生が少し触れると、いろんな感情が湧きでて、幸せに包まれるのに。


これから、先生と離れるのは考えられない。



がんばろう。

がんばろう。

泣いても笑っても、あと1ヶ月。




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