541.父と母と先生

先生が、広い背中を少し屈めて、母に頭を下げている。

「また、挨拶させて下さい。突然おじゃましてすみませんでした。お父様にもよろしくお伝えください」

あんな大人げないお父様でごめん、先生。


「いいんよ~。また気楽に来てな。いつもこの子の勉強みてくれてありがとう。先生も仕事してるのに、土日休めてる~?」

いや、あんなお父さんのリアクション見たら、気楽に来られへんやろ…
と心の中でつっこむが、さっき凍りついた空気を全力で溶かす母の朗らかな会話を聞いていた。


「教職ついてた頃よりは休めてますし、僕のことよりみなみさんの受験だと思ってるので…」

キリっと音が聞こえてきそうな先生らしい返事に、母も「あははは。いつもありがとうねぇ」と笑っていた。


1年前、厳しい顔で先生と話していた母。
今は母も味方になってくれてるように見える。
先生のことも、「先生」とは呼んでいるけど、ずいぶん砕けた関係になってるように見える。

父の薄めの(というか、むしろ感じ悪い)リアクションが気になりつつも、母という味方がいてくれる安心感は大きかった。


先生、嫌な気してないかな…。
お父さんも大人なんやから、ちゃんと挨拶してほしい。

まるで関心ないみたいな、先生の存在を拒絶するようなこと、せんといてほしい。
親心のわかってない私は、そんなふうに思っていた。


先生が家を出て、車に戻る道。
「私も送る」と空き地前までついて行った。
年末の夜、凍りそうな冷たい空気に身を縮めながら、コートのポケットに手を入れて歩いた。

少し前を歩く先生は早足で、その早さに違和感をと覚えながらも、私も早足で追いかける。


車に到着。遅れて私も到着。

「先生、はや~」と、笑いながら言うと、先生がドアに手を掛けて、「あ~~~」と唸り出した。


「なあ、俺、お父さんに感じ悪いと思われへんかったかな!?」

「えっ。かっこいいで」

「かっこいいわけないやろ~~。あ~~俺~~。さっぶいわ~」

「お父さんのほうが感じ悪いやん、先生は気にせんでいいよ」

「お前……そんなわけないやろ~~」

返事もいつもより弱々しい。
さっきとは別人のようにがっくりと落ち込んでる先生。

カタブツ感が崩れてめっちゃかわいい。

ぎゅーってしたい…!
って言ったらさすがに空気読めてない人になりそうなので、黙ってにやける口元を押さえていた。




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