520.先生のくちびる

箸を置いた。
空になったどんぶり鉢が二つ並ぶ。

私が泣いていることも、先生はたぶん気付いていた。
でも何も言ってはこない。

先生のつむじが動き、私の方を見てまた机に伏せる。
今のうちにとばかりに、先生に見えないようにこそっと目元を拭って俯きながら、テーブルの上に手を置いた。

先生の片手も、テーブルの上に投げ出されてる。


大人の男の人の、大きな手。
私と違う、“大人”って生き物やと思ってたけど…。


先生が、元カノと会うの想像したら、嫌に決まってる。
以前も、元カノじゃなくても、先生が他の女の先生とかと飲んでるって聞かされただけでも、吐きそうなほど嫌やったのに。

自分が嫌だと思うことなんて、たいてい他の人にとっても嫌なことやのに。

私のアホさにいろんなこと、我慢してきたんかな。
アホすぎる自分をぶん殴りたい…。
「無神経」ってほんま私にぴったりで…落ち込む。


「…先生、これ、洗っといたらいいんかな?」

食器を片づけてしまおうと、先生の方にあったどんぶり鉢を取ろうとしたら、「後でええんちゃう」と伏せたまま動かない。

「後でいいん?洗って玄関先出しといたら取りに来てくれるの?」

「うん…」

先生は、力ない返事をしながら顔を上げない。
投げ出されている手も動かない。


私が無神経に話しかけたから、嫌やったんかな。
こういう状況で、どう振舞うのが正しいのかがわからない。


「シンクにだけ置いとく……」

立ち上がって、食器を重ねた。
持ち上げる直前に先生に手を引っ張られ、ごとりとどんぶり鉢が音を立て、お箸が落ちる。


「わっ、あぶなっ…」

「後でいいって言うたやん」

「あ、ごめん……」


先生は座ったまま、つっ立ってる私を抱きしめる。
豊満ではない私の胸に顔を埋めながら、大きな手は、私の腰まで下りてくる。
胸元に掛かる吐息が熱く感じて、先生の髪を触る。


触られたことに気付いた先生が、私を見上げた。



嫌な思いさせてごめん。
怒らせてごめん。
カッコ悪いこと言わせるなって言ってたけど、カッコ悪いところも全部好き。



「先生……目ー閉じて」



先生の目を手で塞いで、唇を押しつける。

これで、好きな気持ちが伝わるかなぁ。






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