519.先生のつむじ

お茶の間は凍てつくような空気なのに、テレビからは、ギャグの応酬と笑い声。
シュールな光景。

「ごめんなさい」以外に言葉が見つからない。
先生に触れる勇気もない。

先生も、背を向けたまま微動だにしない。
早く会って、その分仲良く過ごしたかったはずなのに、出前が来るまでの小一時間、気まずいまま同じ場所にいるだけだった。



ピンポーンと出前のかつ丼が来たのは、番組が終わったころ。
先生は無言で立ち上がって玄関まで行き、支払いをしたりしていた。

玄関の方を向けない。
先生の顔が見られない。

先生が受け取った出前を無垢のテーブルに置いているのが視界に入る。
そして、「食べよう」と声を掛けられた。

「うん」とテレビを消して立ち上がる。
先生は、新しいグラスを出して、飲み物を注いでいた。


気軽に声は掛けられない。

二人で向かい合って座り、わくわくしながら頼んだはずのかつ丼を、沈黙の中少しずつ口に運んだ。


食べてる気がしない。

先生に嫌われたかもしれない。

ほんまは先生、今私と一緒にいたくないかもしれない。



先生を悲しませたこととか、会いたくてウキウキしながら白いスカートを選んだこととか。
まだかなーと特急電車の窓から、広がる畑を見たこととか。

そういうのが全部混ざって、喉元が苦しい。


先生は私より先に食べ終わって、グラスの中の冷たいお茶を一気に飲み干して言った。

「食わへんの」

「ううん、食べるよ」

目が見られないけど、普通に振舞おうとしてぱくぱくと食べる。
おいしいはずのかつ丼やのに、味がよくわからん。

そんな私を、頬杖をつきながら先生が見ている。


「…言い方キツかったな。ごめん」

「ううん」

箸を止めずに、もぐもぐ食べる。

あかん。
ごめんって言われたら…なんか、鼻がつーんとする。


「…ごめん」


またごめんって言った。

でも、先生のごめんは軽く聞こえへんな。


潤む目で、ちょっと顔を上げたら、テーブルに軽く伏せるようにしてる先生のつむじが見える。

泣くつもりもなかったのに、涙がぽろっと頬を伝った。




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