378.ホワイトじゃないクリスマス

普段、雪が降る地域でもない。ホワイトクリスマスなんて奇跡に近い。
それでも、とても寒い日だった。

食べ終わって、車内の換気をしようと窓を開けたら、冷たい空気が入り込む。

「さーむーいー。もう閉めよー」

「根性足りんな~。ちょっと出て歩くか」

「寒い!耐寒遠足やん」

「出ろ出ろ。散歩するぞ」


急な思いつきで、誰もいない歩道を歩くことにした。

先生が私に手を伸ばし、その手を取って歩きだす。
あたたかくて大きくて、頼もしい手。
私を未来に導く手。


「暗いし、綺麗な景色もイルミネーションも何もないな」

「……先生、あっちは?」


工場が立ち並ぶ方向を指さすと、疎らなライトアップが見える。
クリスマス用じゃなくて、普段から常に点いている工場の照明だった。

「ささやかやな…」

「何もないよりはいいかも」


冷たい風と広い道路。植込み脇の細い歩道で、先生と二人きり。
外で手をつなぐことなんてほとんどなかったから、普通のカップルのようで嬉しかった。

ぎゅーっと抱きついたら、先生も抱きしめ返してくれた。
しかし、寒すぎるので、車に戻る。


先生はダッシュボードから小さな箱を出し、「指輪じゃないで」と私の手に乗せた。

リボンを解いて箱を開けると、シンプルな一粒のネックレスが入っていた。


「ありがとう…なんかキラキラが深い」

「ダイヤモンドです」

「えっ!高かった?」

「いや、そんなことはない。普通。つけたるわ」

先生は私の手からネックレスを取り、するっとつけてくれた。
昔先生に、リクからもらったネックレス外してもらったことあったな。


「先生、ネックレスの着け外し慣れてる?」

「慣れてへんて。器用なだけ」


胸元で輝く小さなダイヤモンド。
この一粒に、先生の想いが詰まっている気がした。


「ありがとう、先生…」

「学校にはつけてったらあかんで」

「わかってる(笑) 言うと思ったわ」

と答えたら、先生はちょっと考えて、
「…他の人にもらったのも、つけんといてほしいなぁ」と言った。


他の人にもらったと言っても、リクにしかもらったことないし、あの星のネックレスも第2ボタンと共にクローゼットに眠ってるんやけど…


「うん。先生のしかつけへん」


先生のたまに見せる独占欲が、すごく嬉しかった頃だった。



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